2025.11.03

YYSystem誕生秘話

#YYのココロ

YYSystemとは? ──YYSystem誕生までの軌跡

「聞こえに不安がある方が、コミュニケーションで取り残されないように」──。

誰もが「いつでもどこでも誰とでも会話できること」を目指し、音声発話や環境音を可視化するアイシン独自のアルゴリズムをコアとした意思疎通支援アプリケーション「YYSystem」。
多くの聴覚障がい当事者様(以下、当事者)や法人企業様に活用されている。

その開発の裏側には、現場の切実な声と、あきらめなかった人たちの挑戦があった──。

YYSystem開発者・中村さん(右)
YYSystem 導入支援・キヨキヨさんこと日下さん(左)

諦めに近かったコミュニケーション

株式会社アイシン(以下、アイシン)は、障がい者雇用促進法が制定される以前から、積極的に障がいのある人々の雇用を進めてきた。なかでも、聴覚障がいのある社員が全体の半数近くを占めていた。

そんな先進的な取り組みの一方で、あるとき労務問題が浮かび上がった。コミュニケーション不足により、当事者たちが、職場で孤立感を抱えていたのだ。
当事者は、朝礼で何が話されているかわからない。また上司は筆談だと時間がかかってしまったり、手話を覚えてほしいとお願いされるが、なかなか覚える時間が取れずコミュニケーションをあきらめることもあった。

そんな状況を変えるために動き出したのが、当時人事部で労務管理を担当していた日下さん(以下、キヨキヨさん)だった。

「会社として、職場もプライベートも、1人1人が活き活きと活躍できる状態をつくる必要があると、強く感じました」

音声認識アプリ導入──“出禁事件”も

キヨキヨさんが着目したのが、音声認識アプリの導入だった。だが、当時主流だった他社のアプリは、自動車業界特有の機密性やセキュリティ基準に合致しづらい上に、費用対効果の問題で導入が難航。

「セキュリティチェック用の書類を書いてもらえなかったり、予算削減のあおりで承認が下りても頓挫したり。何度も壁にぶつかりました」

中でも象徴的だったのが、ある開発会社とのやり取りだ。
セキュリティチェック用の書類の記入依頼をした際、
「 “大手企業であれば対応するが、社名を知らないアイシンさんへ対応するのは難しい”と返されてしまい、何度か依頼を重ねても受け入れてもらえませんでした。ついには“出禁”扱いになってしまいました。」と振り返る。

ただキヨキヨさんは、その対応を責めるつもりはないという。

「恐らく非常に多忙だったのだと思いますし、そう判断されたのにも理由があったはずです。ただ、現場の切実なニーズとの温度差を実感し、何とも言えない悔しさを覚えました」

そして出会った、エクォス・リサーチ──実は“身内”だった

そんな時、障がい者採用関連で交流のあった筑波技術大学の先生に相談。そこで紹介されたのが、なんと当社のグループ会社・株式会社エクォス・リサーチ(以下、エクォス社)。

同社が開発していたのは、音声認識機能を備えたナレッジマネジメントツール。
(※ナレッジマネジメントツール:組織内の知識(ナレッジ)を効率的に蓄積・共有・活用するためのツール)

「もしかしたら、話がいい方向に進んでいくかもしれない。」──そう感じ早速連絡したが、当初は開発目的が異なっていたため、協業の申し出は否定的に受け止められた。

「一度は喧嘩別れのような状態にまでなってしまいました」

しかし、時代は電動化・自動運転など“100年に一度の変革期”。社内リソースの有効活用という方針のもと、両社の社長も交えて協議が重ねられ、ついに「まずは実証実験から始めよう」と合意に至った。

当時、YYSystem(当時はYYProbe)はまだ正式リリース前。プロトタイプ版を用いて、現場でのフィードバックを積極的に取り入れる体制が即座に築かれた。

実証実験、そして“共創”の原点

実証実験当初、「音声認識の精度については、正直、他社アプリとそこまで大きな違いは感じられなかった」とキヨキヨさん。
加えて、工場ならではの課題──騒音や高温環境、静電管理が必要なクリーンルームなど、過酷な使用条件が立ちはだかる。

そこで、キヨキヨさんは当時エクォス社でナレッジマネジメントツールを開発していた開発者中村にこの状況の相談を持ちかけた。すると中村さんは、“新幹線の高架下でも音声を拾える”ノイズ除去仕様を即座に検討・実装し、改善版をリリース。

「開発スピードに驚きました。自動車部品業界ではありえない速さです。現場との信頼関係が一気に深まりましたね」

その姿勢こそが、後のYYSystemを形作る「共創」の原点になっていった。

スピードの裏にあった“気づき”

なぜそのスピードが実現できたのか。

その背景には、中村さん自身の“気づき”があった。

「障がいを持つ方の雇用や人事の世界なんて自分とは無縁だと思っていました。でも、キヨキヨさんとの出会いで、“無知の知”に気づかされたんです。」

ナレッジマネジメントの世界で“聞こえない・話せない”そんな方が切り捨てられてしまうこと──その構造的な格差に、中村さんは初めて気づいた。

当事者に寄り添った理想のツールを、技術者が独力でつくることは難しい。
人事担当者も理想のサービスを追求しようとしても、技術的な制約やコストの壁まで見通すのは容易ではない。立場も知識も異なる2人が偶然にも引き寄せられ、ベストバランスで融合し、伴走していく。この先に真に求められているシステムになっていくのではないか。そう感じYYSystemの開発にのめり込んでいった。

「人事と開発が一緒に作ることで本当に求められるシステムが作れるのではないか。」中村さん

現場の声が、YYSystemを育てた

実証実験は、工場の1/3ほどの職場から始まった。プレス機の横、高温現場、静寂な電子作業室など、あえて多様な環境を選定。

「とにかく、気になったことは何でも言ってください」

キヨキヨさんはそう現場に伝え、寄せられた声は即座に中村さんに共有され、改善・リリースされる。

「じゃあ、もっと言おう」
現場にそんな熱が生まれ、YYSystemは加速度的に進化していった。

認識精度は飛躍的に向上し、リクエストされた機能は追加され、「朝礼が理解できるようになった」「上司の話が“見える”ようになった」──。そんな反響が現場から届き始めた。

YYSystemは、現場のリアルな声を吸い上げながら、当事者が使いやすいアプリに生まれ変わっていった。

「最初は面倒だ」と言われた。でも──

とはいえ、すべてが順風満帆だったわけではない。導入当初は現場から「仕事が増える」との反発もあった。

キヨキヨさんは粘り強く現場と向き合い、
・好事例の紹介
・相談体制の整備
・当事者による自主的な設定・運用支援
・意識改革研修などのソフト面に対する施策
を重ねていった。

また、会社スマホ(iPhone)の貸与が課長級以上に限られていたため、若手社員が利用する際の配慮も必要だった。使用制限や持ち出しルールなど、細かな運用も含めて調整を実施し、現場への浸透を支援。

やがて、「こんな笑った部下初めて見た」と語る上司や、「嬉しくて泣いた」という当事者の姿も現れた。

YYSystemが目指す社会

今では300人近い聴覚障がいのあるアイシングループ社員が、YYSystemを日々の業務で活用している。

開発当初、「これはナレッジマネジメントツールであり、目的が違う」と言われたアプリは、関係者の情熱と現場の声に育てられ、“本当に役立つプロダクト”へと進化した。

YYSystemの文字表示は、ただの音声認識結果ではない。
それは、当事者にとって“なくてはならない存在”。

聞こえに不安のある方が、コミュニケーションで取り残されることのない社会へ。

YYSystemが目指すのは、誰もが「いつでも、どこでも、誰とでも会話できる」そんな社会です。

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